「医療的ケア児」とその家族を、大阪の人気スポットに招待するイベントが開催されました。生まれつき骨の異常と肺疾患を患う藤井湊介くん(6)もその1人。久々のお出かけは、家族みんなにとって大切な思い出になったようです。
※医療的ケア児とは・・・日常的に人工呼吸器による呼吸管理などの医療的ケアが必要な子ども。全国で推計2万人。
「子どもが最優先で楽しめるイベントにしたい」貸し切りで『海遊館』&『クルーズ』
今年4月20日、大阪市港区の海遊館で貸し切りイベントが行われました。招待されたのは知的障がいがある子どもや医療的ケアが必要な子どもたちです。
(イベントを企画 佐藤翔さん)「なかなかご家族で外に出かけるのが一苦労という子どもたちをご招待して、貸し切りというなかで、誰の目も気にせずに、とにかく子どもが最優先で楽しめるイベントにしたいなと思いました」
このイベントは、企画の趣旨に賛同したスポンサーが費用を負担し、招待客は無料です。さらに子どもたちはサンタマリア号のクルーズにも招待され、水上からの夜景を楽しみました。
「病気によっては短命。今しかできないことをさせたい…」保護者の思い
大阪府松原市の「ekubo」は、招待を受けた施設の1つ。医療的ケアが必要な子どもなどを預かっています。イベントを前に話を聞きました。
(ekubo 所長・石田瞳さん)「お座りができる程度のお子さんや、知能的なところでなかなか発達が見込みにくいお子さん、医療度が高いお子さんが通われています」
「医療的ケア児」とは、日常生活を送るにあたって人工呼吸器による呼吸管理や痰吸引などの医療的ケアを受けることが必要な子どもを指します。
(施設を利用する母親)「人が多いところに出かけるということは感染リスクが上がるということなので、貸し切ってもらえるとかすると、わりと安全にお出かけができる。こういうイベントとかでは一番うれしい」
医療的ケア児の外出には高いハードルがありますが、家族にはお出かけをしたいという強い思いがあります。
(施設を利用する母親)「病気によっても違うと思うんですけど、(自分の子どもは)わりと短命だと思うんですよ。だから今しかできないことをさせたいかなと思います」
生まれつき“骨の異常”と“肺疾患”を患う藤井湊介くん 家族みんなでイベントに参加へ
イベント前の4月16日、大阪府羽曳野市に住む藤井さん一家も、貸し切りイベントを楽しみにしていました。
長男の湊介くん(6)は、生まれつき骨の異常と慢性的な肺疾患を患っていて医療的ケアが必要です。午前中の支援学校から帰ってきた湊介くんは、自宅に着くとすぐに呼吸器を取り付けます。
(母 夏津季さん)「これが吸引器、これが医療用酸素、これが呼吸器、そして呼吸器に繋がっている加湿器です。(Q専門的な機械ですね?)ですよね。私も湊介が生まれてからこういうことを覚えたので。私にできるのかな、家でできるのかなと不安だったんですけど、なんとか」
お母さんの夏津季さんは湊介くんのケアをしながら家事をします。
(母 夏津季さん)「今ちょっと(湊介くんが)落ち着いているので、この空いている時間に家事を。じゃないと、夜はそこまで手が回らないので、今の間にしています」
そうした中、湊介くんの呼ぶ声がして、お母さんはすぐに反応します。
(母 夏津季さん)「(Q湊介くんを気にかけながら家事を?)「そうですね。なにか訴えてもいて、頭がよくずり落ちているので、ご飯を作りながらチラチラ見ながら」
湊介くんの入浴の際も細心の注意を払います。
(母 夏津季さん)「呼吸器のガーゼに水が入ったら気管内に水が入ってしまうので、気をつける部分がいっぱいあります」
藤井さん一家は4人家族。湊介くんはお母さんの補助があれば自分で食事ができます。
(父 涼介さん)「サンタマリア号って動くん?」
(姉 和花奈さん)「動くで」
(父 涼介さん)「ぐるーってどっか行くん?」
(姉 和花奈さん)「うん」
(父 涼介さん)「大きい?」
(姉 和花奈さん)「大きかった」
今度のサンタマリア号と海遊館でのイベントの話題で盛り上がります。
(父 涼介さん)「年齢を重ねるごとに、ちょっと体も大きくなって強くなっていってるし、いろんなことができるようにはなっている。もっとこれからも、今は諦めているけどもうちょっとできるかなということはどんどんやらせてあげたい」
家族の思い出にもなり、湊介くんの成長にも繋がるお出かけ。お父さんも楽しみにしています。
(母 夏津季さん)「抱っこする?」
(湊介くん)「うん」
(母 夏津季さん)「出かけていても、こうやって長時間座っていると“疲れたアピール”があって、そういう時とかは大変かなって思います」
南港に停泊する「サンタマリア号」へ! この日はじめての笑顔でお母さんの声に応える
いよいよイベント当日です。久々のおでかけに、少し緊張気味の湊介くん。
(母 夏津季さん)「おっきいジンベエザメ見たらどんな反応するのかが楽しみです」
湊介くんはジンベエザメがお気に入りのようです。
車を走らせること1時間。南港に停泊しているサンタマリア号に到着しました。
船内はすでに満席。湊介くんは離れたところから海を見ていましたが、海が見えやすい席に移動することができて…
(母 夏津季さん)「海や海。動いてるで。楽しい? イエーイ」
湊介くんがこの日はじめて笑顔を見せてくれました。右手をあげて、お母さんの声に応えます。
『海遊館』で見るイルカは少し怖かった!? 家族全員でゆったり楽しい時間を過ごした藤井さん一家
このイベントには児童発達支援や放課後等デイサービスの5つの施設が招待され、約300人が集まりました。
約2時間のクルーズのあとは、いよいよ海遊館へ。夜の水族館を奥へと進んで行きます。
湊介くんがイルカの水槽の前に到着しました。
(父 涼介さん)「ビビりまくってる」
(母 夏津季さん)「泣いてんの?」
(姉 和花奈さん)「大丈夫やで」
間近を泳ぐイルカは少し怖かったようです。
次にやってきたのは淡水魚の水槽です
(母 夏津季さん)「きたきた!食べられるで」
(父 涼介さん)「いつも食べてるけど食べられるで」
目の前で泳ぐ魚は湊介くんには少し怖かったようですが、家族全員でゆったりとした楽しい時間を過ごしました。
『ジンベエザメ』のぬいぐるみ受け取り最高の笑顔! 家族みんなの大切な思い出に
湊介くんがこの日最高の笑顔を見せました。それは目の前に泳ぐ魚ではなく、ジンベエザメのぬいぐるみをもらった瞬間でした。
(父 涼介さん)「(Q水族館とクルーズはどうでしたか?)むちゃくちゃ楽しかったです」
(姉 和花奈さん)「家族の思い出が一つ増えて良かったです」
(母 夏津季さん)「なかなか経験できない夜の水族館とか船に乗れて、湊介も喜んでいたし、家族みんなでとっても楽しかったです」
ジンベエザメのぬいぐるみを受け取ったときの笑顔は、お母さんにとっても家族にとっても、大切な思い出になりました。