新型コロナウイルス専門の病棟を抱え、多くの重症患者を受け入れてきた“最後の砦”である神戸市立医療センター中央市民病院。MBSでは、今年1月から約8か月にわたって中央市民病院への取材を続けてきました。そして今回、第5波のまっただ中に、医師・看護師・放射線技師といった現場で働く人たちから話を聞くことができました。感染者の急増に必死で対応しながら、新たな課題とも向き合っており、その状況を取材しました。
「慣れることはない」コロナ専門病棟の現状
神戸市中央区にある「神戸市立医療センター中央市民病院」。9月2日、敷地内にあるコロナ専門病棟の取材を記者に限り許されました。
院内のモニターには人工呼吸器を装着した重症患者たちが並んでいる様子が映し出されています。46床のうち、急患用に空けた2床をのぞく全てのベッドが埋まっていました。医師や看護師たちは入れ替わりでウイルスに汚染された区域、いわゆる「レッドゾーン」に入っていきます。
(医師)
「いま呼吸器につないでいて、苦しくないように痛みをとったり、寝かせてあげているんですけど、薬の効果がちょっとうまくいってなくて、暴れている。(Q感染の波に慣れてしまうことも?)いや慣れないと思いますよ、私たちは。いくつ波がきても、あまり慣れていないと思います」
収束が見通せない状況はいまも続いています。
「勤務中に涙が出てくる」感染者急増の第4波…コロナと戦ってきた「中央市民病院」
第3波のまっただ中だった今年1月、2桁台が続いていた兵庫県内の感染者は300人を超すなど一気に膨れ上がりました。コロナ専門病棟をフル稼働させて乗り切り、いったん感染拡大は落ち着きますが、4月には第4波が到来。イギリスで確認された変異ウイルス「アルファ株」が流行し始めました。
(神戸・中央市民病院 橋本信夫理事長 今年4月)
「心が折れそうです。やはり命の選択をしないといけない」
感染者は急増し、全ての病床が埋まり、重症患者でさえも受け入れを断わらざるを得ない状態が約2か月続きます。
(看護師)
「勤務中に涙が出てくる。異常な事態と、患者さまの重症度も高いし、使命感でやらないといけない気持ちもあるし」
ところが、6月末には病棟の様子が一変していました。6月上旬まで多くのコロナ患者で埋まっていた病棟は、がらんとした状況になりました。
医療ひっ迫を緩和するために全国の看護師たちが派遣されていましたが、彼らも6月30日に応援最終日をむかえました。
(まつもと医療センター(長野県) 派遣看護師 6月30日)
「これで本当に最後の派遣になれば、それがいちばんなのかなと思います。また第5波・第6波がくると、また派遣ということになると思うので、そういったことがないといいなと思います」
“第5波”の病棟…持病を抱えながら働く応援の看護師も
「応援は今回で最後にしたい」という願いは、予想と違う形で現実のものとなりました。第5波の到来でした。インドで確認されたデルタ株への置き換わりが進み、感染者が全国的に急増しました。どの病院も派遣看護師を出す余裕はありませんでした。
そして9月2日。中央市民病院の病床もひっ迫していました。兵庫県では8月中旬から新規感染者が1000人を超える日が続いていました。第5波がこれまでと違っていたのは、高齢者がワクチンを打った分、比較的若い感染者の割合が増えていた点です。
(看護師)
「40代とか50代とか働く世代の方たちだったり、あとは男性だったらおうちの大黒柱であったりで、その役割ってすごく大きいと思うんですよね。だから精一杯やっているけれども、こういう防護服を着て体力も限界なところでやっているので」
全国からの応援がない分、看護師不足も深刻となる中、院内の一般病棟からも応援に来ていますが、持病を抱えながら働いている看護師もいます。
(応援の看護師)
「わたしは乳がんで、薬は今もホルモン剤を飲んでいるんですね。最初はわたしは外されていたんですけど、もうワクチンも打ったし、第4波から『行ってね』と言われて、『はい』と。はやく元のところ(病棟)に戻りたいんです、やっぱり。そのほうがちゃんと働けると思うので。なにせ慣れてない病棟に来ているので、どこに何があるのかがわからない」
コロナ病棟を医師らと共に支える「看護補助」の人や「放射線技師」たち
コロナ病棟を支えているのは、医師や看護師だけではありません。看護師が使用する備品などを補充する「看護補助」の女性も、第5波で急増する重症患者の対応に追われています。
(看護補助の女性)
「(Q何を持っていますか?)吸引器といって痰の吸引をしたりするものですね。(患者が)急に増えて(備品が)急に品切れしないようにまわさないといけない」
ワクチンが普及する分、症状が現れにくい陽性者も出てきています。患者の検査などを行う放射線技師は「隠れている症状」を見つけ出さなくてはいけません。
(放射線技師)
「CTを撮ってみたら肺が白かったとかはけっこう多くなってきたので、隠れている無症状の方とかコロナ陽性の方はいらっしゃるので。そういうところには注意をしながら検査しないといけないので、そこに重きがとられてしまうので業務が煩雑になっている」
『第6波』を見据え…副院長「地域全体で患者を診る"出口戦略"が重要」
中央市民病院の富井啓介副院長は、第5波の“次”を警戒します。
(神戸・中央市民病院 富井啓介副院長)
「もう1回たぶん冬場に波が来ることが予想されますよね。今のワクチンの接種率だと…。それを最後にしてほしいなというのが率直なところです」
見据える「第6波」。今後は病院の負担を減らすため、重症患者でも体調が回復すれば別の病院へ転院させるといった“出口戦略”が重要だと話します。
(神戸・中央市民病院 富井啓介副院長)
「うちの病院がいくら頑張ってもうちの病院だけで全部やることはできないので、やっぱり他の医療機関やいろんな施設と連携をして、まち全体で、神戸市全体で患者さんを診ていく。そういう方向をこれからきちんと考えていかないといけないと思います」
コロナに向き合い続ける中央市民病院。「最後の砦」の役割は今後も変わることはありません。
(2021年9月16日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)