大阪市西成区の「あいりん地区」は、JR新今宮駅の南側にあるエリアで、古くから“労働者の街”として知られています。一方で、覚せい剤の密売や路上での闇市、ごみの不法投棄など、問題が山積していました。ところが、その「あいりん地区」が、大きく変わり始めていました。「あいりん地区」のいまを取材しました。

暴動が起きた街 変化のきっかけは「えこひいき政策」

1990年、大阪市西成区。当時の様子を記録した映像では、男性が警察官にガラス瓶を投げつける様子や棒を振り回す男性の姿、さらに路上では車が燃えている様子が記録されていました。警察官と労働者らが激突した「西成暴動」です。
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舞台となったのが、日雇い労働者の街「あいりん地区」です。地域の歴史を伝えるため、街巡りガイドをしている水野阿修羅さん(72)は、自身も日雇い労働者としてあいりん地区に住み始め、50年以上が経ちました。かつてはたびたび暴動が起きるなど、治安が良いとは言えないあいりん地区でしたが、今、大きく変わり始めているといいます。
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(街巡りガイド 水野阿修羅さん)
「路上強盗も昔は多かったですね。特に酔っぱらって寝ている人を襲う人とか。今はほとんどないですね。急激な変化で街がきれいになったとかね。住みやすいと言えば住みやすい」
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きっかけは、大阪市が始めた「西成特区構想」でした。

(大阪市 橋下徹市長 2012年当時)
「(大阪市)直轄で、ある種のえこひいき政策をやろうかなと」

2012年に当時の橋下徹市長が、西成区の治安や環境を改善するため、西成区だけを「特別扱い」する構想を打ち出します。毎年、多額の税金がつぎ込まれ、市は現在までで総額118億円もの予算を投入しています。時代の変化もあり、街の姿は大きく変わってきたと水野さんはいいます。
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(水野阿修羅さん)
「ここに必ず昔は覚醒剤の売人が立っていて、監視カメラがついたからいなくなったというね」

10年前の取材で捉えた「怪しい取り引き」

2010年に、MBSではあいりん地区での不審なやりとりを撮影していました。取材時の映像に映っていたのは、お金を渡す男性や財布に1万円札をねじ込む男性の姿でした。お金と引き換えに、注射器のようなものが渡されていて、白昼堂々、明らかに『何か』が売買されていました。

約50台の防犯カメラが設置された今、こうした「怪しい取り引き」は目にしなくなったといいます。

かつては違法商品を販売の『露店』が道路を占拠

街巡りガイドの水野さんは、怪しい取引以外にも、かつてのあいりん地区の姿について次のように話しています。

(街巡りガイド 水野阿修羅さん)
「昔はここは露天商がすごくて、いっときね、ずらーっと露天商が昼間もやっていたと思う。もういまはゼロですけれども」
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かつては道路を50以上の露店が占拠していいて、違法な商品が堂々と売られていました。

(2015年取材時の映像)
(露天商)
「(Qこれいくらですか?)3800円。300円まけて3500円」
(露天商)
「(時計の)中に『ロレックス』って書いているやろ。書いているやつはええやつや」

どこから入手したのか、痛み止めの薬や睡眠薬も大量に並べられていました。
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しかし、道路を違法に占拠していた露店に対して、大阪府警の捜査員が一斉に摘発に乗り出しました。闇市の存在は治安の悪化に繋がりかねません。

(2015年取材の映像)
(露天商)「しばいたろか!」
(警察官)「しばいてみいやこら!」
(露天商)「俺を誰やと思ってんねん!」
(警察官)「知るか!」
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こうした警察の摘発強化もあり、今や静かな道路となりました。

壁の洗浄や不法投棄の監視で街をきれいに

「西成特区構想」で治安以外にも力を入れたのが環境整備事業です。市から委託を受けた業者が高圧洗浄で徹底的に壁を洗います。

(担当者)
「よく立ち小便をする人がいますので、その臭いと汚れを全部洗浄で」

夜になれば不法投棄の見回りも行います。見回りをすると、車のタイヤなど、不法投棄はいまも続いていました。それでも、7年前と比べて半減したといいます。

こうした取り組みの結果、あいりん地区の中心「三角公園」も…。
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2012年と2021年に撮影された写真を比較すると、2021年の撮影された様子の方がすっきりとした印象です。

「ドヤ」が姿を消し増えるのは『老人ホーム』や『ホテル』

かつて1泊2000円前後で宿泊できた簡易旅館「ドヤ」も姿を消しつつあります。その一方、増えているのが…。
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(街巡りガイド 水野阿修羅さん)
「有料老人ホームができて。労働者がいなくなって高齢者の街になるというのを見越したオーナーたちがこんなふうに。本当にこの街に高齢者がね、増えてきたという典型ですね」

あいりん地区はいま、「労働者の街」から「福祉の街」に生まれ変わる途上にあるようです。
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さらに、あいりん地区のすぐそばではホテルの建設も。星野リゾートが手掛けるホテル「OMO7大阪」はあいりん地区に隣接していて、2022年春に開業する予定です。ほかにもコロナ禍前からホテルの開業が相次ぐなどしていて、あいりん地区の土地の評価額は7年前と比べて1.4倍になっているところもあります。

(街巡りガイド 水野阿修羅さん)
「さあすごいことになるな。(ホテルには)緑がね、すごい多い。この街は緑少ないから」

高くなる家賃…地区の魅力残すため「住民の居場所確保」が大切

ただ、この街で暮らす人たちにとっては…。

(地元住民)
「(Q家賃は高くなった?)それはある。家賃はもう、どこのドヤ行っても家賃は高い。3畳1間で(月)5万くらいとってるやん」
(地元の居酒屋店主)
「家賃も高いし土地も高い。だからいろんなことが変わってきている。もっと下げてほしいですね。店の家賃も下げてほしいですね」
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市は地元の人たちに配慮しながらも、特区構想自体は今後も進めたいとしています。

(西成区役所総務課 企画調整担当課長代理 狩谷健三さん)
「今住んでいるほかになかなか行き場のない困窮者の方の居場所と、ただ一方で、街の活性化ということを進めていけば必然的に一定程度の地価の上昇というのは避けられないところかなと。そこの折り合えるポイントを日々考えているという状況でございます」
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「あいりん地区」には、さまざまな事情を抱え、暮らす人たちが大勢います。そうした人たちが地域の個性を形作ってきました。長年、街とともに生きてきた水野さんは地区の魅力を残すためにも、住民たちの居場所を確保することが大切だと訴えます。

(街巡りガイド 水野阿修羅さん)
「文化のアートの問題もそうだけど、みんな同じだったらアートって生まれないんですよね。やっぱり個性的な人がいっぱいいないと。だからこの街はやっぱり生きるのが下手な人たちがいっぱい住んでいるから、そういう人たちが排除されるのも困るなというのもある」