来年度から高校の社会科に新たな必修科目として「公共」が導入されます。今回の学習指導要領の改訂の目玉とされているこの「公共」という科目は、一体どんなことについて学ぶのかを取材しました。
「公共」導入に先駆け…高校生らが会社員として労働問題を考える
大阪府立豊中高校能勢分校。来年4月の「公共」導入に先駆け、一足早く授業に取り入れていました。取材した日、特別講師として呼ばれたのは弁護士です。
(大阪弁護士会 小寺弘通弁護士)
「一番みなさんにとって関わる可能性が高い問題ということで、ロールプレイをやってもらって労働問題について考えてもらいたい」
ロールプレイのシナリオはこうです。始業時間が午前8時という契約で入社したAさん。ところが、主任からもっと早く出社するよう求められます。
(主任役)「Aさん、もう少し早く来られないの?」
(社員役)「でも、始業は8時じゃないんですか?」
(主任役)「他のみんなは30分前に来て掃除とかしているよ。だからAさんも30分早く来てよ」
Aさんは主任に従わないといけないのか、それとも従わなくてもいいのか。
(大阪弁護士会 小寺弘通弁護士)
「結論どっちでもいいんですけど、大事なのはなんでそう思ったかということなので」
「授業がないと考えなかった」現実社会の課題に『解決する力』を養う
生徒は1分間で自分の意見をまとめていきます。
(高校生)「午前8時~午後5時までという契約なので、別に30分前から来いということに従う必要はない。これ僕の感想なんですけどそういうことなのかなって」
(小寺弁護士)「なるほどね、すごくいい意見ですよ。他の方いらっしゃいますか?」
(高校生)「(おかしいと)言わない」
(小寺弁護士)「言わない?」
(高校生)「おかしいと思っていても、上司とこれからも働いていくうえで良い関係を築きたいから思っていても言わない」
議論を重ねる生徒たち。「公共」の科目では、こうした現実社会の課題と向き合い『解決する力』を身につけることを目指しています。
(高校生)
「授業がないと考えなかった。バイトもしたことがなくて、こういう機会がないと考えられなかったですね」
(府立豊中高校能勢分校・社会科 山内逸平教諭)
「これがこうあるべきだということを伝えるのではなくて、こんな意見もあるよねとか、あんな意見もあるよねということをみんなで、私も含めて教員と生徒が一緒に考えていくことが必要なのかな」
導入の背景に「成年年齢の18歳への引き下げ」
政治や経済について学ぶ科目「現代社会」が今年度で廃止されることに伴って導入される「公共」。知識の内容は「現代社会」とほとんど変わりませんが、『解決する力』の習得だけでなく、様々な図表から『論理的に読み取る力』などを養います。「数学Ⅰ」や「現代の国語」などと同じく、高校生全員が学ぶ必修科目になります。
「公共」の学習指導要領の作成に携わった玉川大学の樋口雅夫教授は、新課程に導入した理由について次のように話しています。
(玉川大学 樋口雅夫教授)
「来年の春からは成年年齢も18歳に引き下げられる。となりますと、高校を卒業する段階で大人として必要な力を確実に身につけなければいけない。他者の背景にある考え方は何なのか、それをしっかり踏まえた上で自分の意見を構築していく力が求められます」
サンプル問題に大学生「暗記科目より、自分の頭で考えるのでためになる」
では、大学入試では一体どんな問題が出題されるのでしょうか。大学入試センターが公開している「公共」の共通テストのサンプル問題では、国際機関などの調査データを元にした5つの資料全てを読み解いた上でないと答えを導き出すことができない問題が出題されていて、『考える力』が問われる出題になる見通しです。
そこで、受験を乗り越えてきた現役の大学生たちに実際に解いてもらいました。大学生たちの反応は…。
(大学生)
「作業でやらされる暗記科目より、こうやって自分の頭で考えたほうが、あとあと自分のためになるのかなと思います」
「(Q高校生に戻って『公共』したいですか?)自分がやっていた勉強よりはしたいです」
大手予備校の講師は「思考力重視の傾向が入試の問題からもわかる」といいます。
(河合塾・公民科 吉見直倫講師)
「政府が新しい資料を出してきたと、その新しい資料を読み解き、現状、課題、どんなものがあるのか、見抜く力を試すのがこの『公共』という科目の性質であり、これを学ぶことによって大学での学びにも繋がってくると思いますね」
「暗記」から「考える力」へ。教育のあり方が今、変わろうとしています。