京都府福知山市を拠点に活動し、独創的なデザインの「竹灯籠」を制作する職人がいます。この職人が作品のために調達する竹は、長年整備されず荒れたままになっている「放置竹林」から伐採されたものです。危険な「放置竹林」の問題に目を向けてもらいたい、そんな思いがありました。
神社を神秘的に照らす「竹灯籠」
11月17日の兵庫県養父市。紅葉に彩られた養父神社を神秘的に照らす光がありました。神門を飾る32本の竹灯籠です。よく見てみると、竹には無数の小さな穴が開けられています。
(神社を訪れた人)
「きれいでした。いい思い出になりました」
「パッと見て竹とはわからないくらいで、すごく幻想的できれいです」
竹灯籠のデザインからライトアップの設営まで全てを担当したのが、竹灯籠製作集団「竹一族の陰謀」です。このチームを率いているのが竹灯籠師の小川はじめさん(51)です。北近畿を中心に各地で竹灯籠を使ったライトアップイベントを開催。2019年には「京都デザイン賞」で入選しています。
(竹灯籠師 小川はじめさん)
「やっぱり一番つらいピークはいろいろあるわけですよ。制作のピークもありますし、デザインを決めるときのもどかしさとか生みの苦しさもいっぱいあるんですけど、設置したあとの(来場者の)反応を見たりとか、それがやっぱり一番救われますね」
ミリ単位での作業 数千個の穴を開けることも
小川さんの工房は京都府福知山市にあります。ここで日夜、竹灯籠づくりに没頭しています。小川さんの竹灯籠の特徴は、ミリ単位でサイズの異なる穴を開けて、繊細な図柄を浮き上がらせるように描くところです。
(竹灯籠師 小川はじめさん)
「デザイン用紙を作るのにめちゃくちゃ時間がかかるわけです。これで10日くらいかかっているデザインですね」
デザインが細かい分、多いものだと数千個もの穴を開ける必要があります。一度穴を開けてしまうと元に戻せません。1本を完成させるのに半日以上かかることもあり、集中力をいかに切らさず穴を開け続けられるかがポイントです。
(竹灯籠師 小川はじめさん)
「気が付けばすぐに1時間たっている。(Qイベントでは何本作りますか?)多いときで100本近くですね。こんなに細かくはないですけど、逆に言うともっと細かいものをイベントで使うこともあって、大変です」
竹の中にLEDを仕込み、図柄が浮き出る具合を見て、問題がなければ完成です。
(竹灯籠師 小川はじめさん)
「いいですね。自分が作っていますけど、自画自賛しています」
作品の竹は「放置竹林」から調達 整備に頭を悩ませる地域や自治体
小川さんの作品で使う竹は京都府舞鶴市で調達していますが、実は、放置されて荒れ果てた竹林から伐採した竹を使っています。
(竹灯籠師 小川はじめさん)
「何十年か前までこの辺はちゃんと整備されていて、こんなに(竹が)侵出していなかったはずなんですよ」
昔はカゴなど竹を使った製品が家庭でも使われていましたが、プラスチックの普及などともに消費量は減り続け、その結果、整備されていない「放置竹林」が増えてきたのです。
小川さんに竹を提供している「まいづる竹林整備・竹活用ネットワーク協議会」の平野光雄さん(69)は、地域のボランティアとして放置竹林の整備を行っています。
(小川さん)「この辺りも畑やったんやね。畑が竹に侵食されて」
(平野さん)「今年の秋に伐採をしたんですわ」
竹は成長が早く、放置されたままだと、周りの木々をすぐに追い越して太陽の光を遮ります。すると、陰になった木々が枯れるなどし、森の生態系が破壊されてしまうというのです。また、浅く地下茎を張ることから、斜面の土を固定する力が弱まり、大雨の際に土砂崩れが発生する恐れもあるといいます。
住民が高齢化していることもあり、竹林の整備は簡単ではありません。
(まいづる竹林整備・竹活用ネットワーク協議会 平野光雄さん)
「実はこの前、我々の仲間が1人けがをしてしまった。切った竹とだいぶ離れていたけど、それが回ってきて落ちて、あばら骨を折って肺に刺さった。治ったが、そういうのもあって非常に気をつけないといけない」
舞鶴市の担当者も放置竹林には頭を悩ませています。
(舞鶴市農林課 船越博之さん)
「放置竹林は府内でワーストの面積になっていまして、舞鶴市の森林面積のだいたい5%を占めています。このまま行くとかなりの竹害、竹が悪さをして、家の方にやってきたり家の壁を壊したりということも考えられます」
放置竹林の竹を灯籠に…職人の思いは
小川さんはあえて放置竹林の竹を使うことで、少しでも多くの人たちにこの問題に目を向けてもらいたいと話します。
(竹灯籠師 小川はじめさん)
「自分たちが作っている作品をいろんな方に見てもらいたいというのが一番にあったんですが、自分たちの作品を通じて、放置竹林と闘っている方々というのをもっと世に知ってもらわないといけないんじゃないかと思って」
小川さんはこれからも放置竹林を優しい灯へと生まれ変わらせていくつもりです。