お酒のおつまみとしてだけではなく、栄養素が豊富で健康志向の人たちにも人気のアーモンドなどのナッツ。しかし、ナッツを購入する層は中高年に偏っているのが現状だといいます。先細りする需要に危機感を抱いた、創業100年を迎えた兵庫県にある老舗ナッツメーカーが、若者にも「ナッツの魅力」を知ってもらおうと新たな取り組みを始めました。

強みは自社製造 大正10年創業の『有馬芳香堂』

10月に創業100年を迎えた老舗のナッツメーカー『有馬芳香堂』。兵庫県稲美町に本社を構え、ナッツや豆菓子などを加工販売しています。
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看板商品は、創業当初から作っているというソラマメを揚げて塩味を付けた「いかり豆(税込み194円/110g)」に、自社焙煎が売りの「ノンフライ・ミックスナッツ(税込み540円/160g)」です。
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『有馬芳香堂』は大正時代、神戸の税関に勤務していた創業者・有馬嘉馨さんが落花生の輸入に携わったことをきっかけに、大正10年(1921年)に神戸で創業。豆屋さんとしてスタートしました。

(有馬芳香堂 有馬康人さん)
「直接火であぶって、直火で焙煎して、店頭で売っていました」
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当時、大豆や落花生の焙煎で実際に使っていたという『煎り網』など、貴重な商いの記録がいまも残っています。
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現在の社長は創業者の孫にあたる3代目・有馬英一さんです。ここまでの道のりは決して平坦ではなかったといいます。

(有馬芳香堂 有馬英一社長)
「1000社くらいあった豆屋が100数社くらいになっている。競争もありましたので、厳しかった。(Q強みは?)自社で作っているところでしょうね。作っていないところが多い」

ナッツメーカーといっても、海外で加工から袋詰めまでしたものを日本に持ち込む会社が多く、国内製造は珍しいんだそうです。

ナッツの「焙煎」にこだわり しかし需要の先細りに危機感

仕入れを行う『カシューナッツ』は、カシューアップルと呼ばれる果物の先についている実からとれるといいます。
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(有馬芳香堂 有馬康人さん)
「カシューアップルというのですが先に実がついていて、これを割って中からカシューナッツが出てくる」
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『有馬芳香堂』の仕入れ先となる生産地インドでは、この外側の殻を一度火であぶり割れやすくして、一粒一粒取り出しています。コロナ前までは、担当者らが毎年現地に向かうなどして品質の確保に努めてきました。

そして兵庫県にある稲美工場内の倉庫。カシューやアーモンドなどのナッツは「生」のまま輸入されてきます。

(有馬芳香堂 有馬康人さん)
「ナッツは気温とか高い温度を苦手とします。酸化したりしますので。低温で暗いところで保管しています」
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そして、『有馬芳香堂』が強みとする自社「焙煎」は…。

(有馬芳香堂 有馬康人さん)
「あたたかい風を送って豆を躍らせながらナッツに火を通しているんですね。中の水分を飛ばしてカリッとした食感をつくっている」

『できたてに勝るものなし』と、小売店のオーダーを受け3日以内に店舗に直送するなど、他社との差別化を図ってきました。しかし、今後の生き残りには危機感を抱いています。というのも、ナッツのマーケットの主流は「中高年」。将来的な需要の先細りへの対応が喫緊の課題なのです。

大学生の意見は?若者に買ってもらえる商品づくりを模索

そこでやってきたのは神戸市西区にある『兵庫県立大学』。地元企業として経営の講義を受け持つ一方、担当者はナッツの現状について学生と意見を交わす中で、若者たちがナッツを食べない理由もわかりました。

(兵庫県立大学の学生)
「価格が一番だと思います。学生からすると、500円をナッツに払うかと言われるとちょっと厳しいかなと感じます」
「価格が高い。スナック菓子の方が手に取りやすい」
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では、どんなナッツの商品なら買おうと思うのでしょうか?取材した日は学生たちがグループごとにプレゼンを行いました。

(プレゼンを行う兵庫県立大学の学生)
「ながら食べができる。勉強しながら、仕事をしながらということで、半分チョコをつけることで、手がよごれない工夫をしています」

ほかにも量を減らして、買いやすい価格にしたり、キャラクターをデザインしたパッケージにしたり、学生らしい提案が相次ぎました。

「ナッツ主役」の発想から脱却へ

今年8月に、『有馬芳香堂』の担当者らが実現の可能性を探るために会議が行われていました。

(有馬芳香堂の社員)
「アイスクリームとナッツを掛け合わせたお菓子をキッチンカーで販売できないかというアイデアを(学生が)考えてくださいました」

これまで、素材そのものの良さに自信があるあまり、社内ではナッツ主役の発想が染みついていました。
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(有馬芳香堂の社員)
「『ナッツ食べて下さい』『おいしいですよ』みたいな提案だけだったと思うんですけど、こういう(ナッツが主役ではない)提案って正直したことがないと思うので」

「脇役」でも自分たちのナッツなら存在感を発揮できるのではと学生たちに気付かされたといいます。2か月後の試作販売を目指すことにしました。

アイス×ナッツが大好評…「ナッツのおかげで甘すぎない」

そして10月末、いよいよ学生発案の「アイスとナッツ」の商品を神戸市垂水区で販売する日が来ました。使うのは工場で焙煎したてのアーモンドやクルミです。

(有馬芳香堂の社員)
「粉砕したら凝縮している香りがふわっと広がるので」
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香ばしい香りはもちろん、あえて塩味のきいたナッツでアイスの甘さとのバランスをとることに。「ナッツトッピングアイスクリーム」は、ボリュームたっぷりで価格は400円(税込み)です。

肌寒いほどの気温でしたが、思いのほか、途切れることなく家族連れなどが訪れます。
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(客)
「おいしいです。ナッツが香ばしくて」
「ナッツのおかげで甘すぎないですね。そのまま入っているので食べ応えがあります」
「さっき2個買って、もう1個買いに来ました。他の(ナッツ入りの)アイスはナッツの味があんまりしないけど、このナッツはとてもおいしかった」
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トッピングしたのは、実は看板商品のミックスナッツです。

(子ども)「ピーナッツ?」
 (社員)「アイスクリーム屋ではなくて豆屋です」

アイスクリームとともにナッツの試供品を渡し、気に入ったらスーパーでも購入できると売り込みも忘れません。

「まだまだ広げていける」若い層への魅力の訴求に手応え

兵庫県立大学の学生たちも駆けつけてくれました。500円でおつりがくるとは言え、学生にとって今回の価格設定は「あり」だったのでしょうか?

(兵庫県立大学の学生)
「(Q400円高くないですか?)スイーツってそれくらいするかなって」
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手に取るきっかけはアイスでしたが、確実にナッツの魅力を訴求できたのではと、有馬芳香堂の米澤章弘さんは手応えを感じています。

(有馬芳香堂 米澤章弘さん)
「まだまだ十分(若い層にも)広げていけるかな。100年の節目に現状を打破するというか、満足せずに進めていけるように新しい有馬芳香堂をつくっていけたらと思っています」