新しい『500円硬貨』が今年11月から流通し始めました。硬貨の外側の部分と内側の部分で色が異なる作りになっています。偽造対策としてほかにも精巧な技術が取り入れられているのですが、日々500円玉を取り扱っている商店主たちからはどうも評判が良くないようです。一体どうしてなのでしょうか。
見た目が“二重構造”…21年ぶりに変更された『新500円硬貨』
11月に流通が始まった『新500円硬貨』は、大阪市北区の造幣局など全国3か所で鋳造されていて、今回は21年ぶりの変更となります。
(記者リポート)
「こちら、直接入ることはできませんが、このガラスの向こう側の工場内で新500円硬貨が作られています」
大きさは従来の500円硬貨と同じ直径26.5mmで変わっていませんが、ほかに大きな変更点があります。
(造幣局 木村幸司さん)
「一番大きな変更点は、見た目が二重構造になっていて、リング部分とコア部分で材質が異なっております」
新500円玉は、外側は従来の500円玉と同じ素材ですが、内側は白銅などでできていて、1枚に組み合わせて作られています。
また、側面のギザも従来は均一な間隔で入っていましたが、新しい方は一部がほかのギザと異なる形になっています。
さらに縁の部分をよく見てみると非常に小さな文字で「JAPAN」などと刻まれています。
(造幣局 木村幸司さん)
「目的はやっぱり偽造防止ということで。500円は世界的に見ても高額な硬貨になるので、(偽造されると)やはり被害は大きくなりますので、新しい技術の新500円を発行したということです」
新500円玉は今年度中に2億枚が発行される予定です。従来の500円玉も引き続き使えますが、徐々に入れ替わっていくということです。
流通開始から約1か月。街の人に新500円玉について聞いてみました。
(街の人)
「(Qこれ何かわかりますか?)500円玉でしょ?(Q新しくなったが?)あ、そうなん!えー。いま初めて知った。(Q持ったことは?)持ったのも初めて、触ったのも初めて」
「へー知らんかった。まだ持っていないね。一瞬おもちゃかなと思った」
「知らん!完全に知らんかった。1000円出すから2枚かえてーな。(ごめんなさい。これしか無くて…)なんやー!」
認知度はまだまだのようです。
『新500円硬貨』が自販機で使えない?原因は「硬貨選別機」にあった
そんな中、新500円玉を巡り困惑が広がっています。
大阪市北区で老舗の酒店「伊吹屋」を営む小牟礼隆之さん(43)。新型コロナウイルスによる時短要請が解除されてお酒の売れ行きは元通りになりつつあると話します。
(酒店『伊吹屋』 小牟礼隆之さん)
「2年ぶりに昔のような売り上げと忙しさにようやく戻ってきたかなという感じですね」
しかし新たに頭を抱えているというです。
(酒店『伊吹屋』 小牟礼隆之さん)
「こちらの自動販売機についてなんです。新500円玉が自販機に通らないんです」
実際に試してみました。
(酒店『伊吹屋』 小牟礼隆之さん)
「従来の500円玉を入れてみると通ります。新しい方を入れます。これを入れると通らないです」
新500円玉は何枚入れてみても、そのまま返却口に落ちてきます。
原因は自販機の中にあります。
(酒店『伊吹屋』 小牟礼隆之さん)
「この部分ですね。ここのセンサーで『500円』『100円』『10円』とかをチェックして止まります」
この部分は「硬貨選別機」。従来の500円玉だとこの部分に硬貨が止まりますが、新500円玉を入れてみると機械を素通りして返却口に落ちていきます。センサーが新500円玉をニセモノと認識しているのです。新500円玉が使えるようにするには、この機械の交換や更新が必要なのです。
(酒店『伊吹屋』 小牟礼隆之さん)
「最低でも5万円前後かかる。コロナのこんなしんどい状態でまだお金使わせるんかと」
2024年度に発行される『新紙幣』を見据えて対応見送る所も
新500円玉が使えないのはここだけではありません。取材班が、タバコの自販機やコインランドリー、その店内にある両替機で試してみても新500円玉は返ってきました。
大阪市中央区にあるラーメン店「金龍ラーメン相合橋店」の券売機でも新500円玉は使えませんでした。
店長は「機械の入れ替えにコストがかかるため様子見をしている」と言います。
(金龍ラーメン相合橋店 木村陽光店長)
「2024年に新しいお札が出回るということで、それにも対応しなければいけないという先を見据えて、その時に交換したほうがいいのかなと」
実は2024年度には『新紙幣』も発行される予定のため、今回、対応を見送っている所も少なくありません。
大阪メトロでは全ての駅で『新500円硬貨』に対応
一方、大阪メトロでは、公共交通機関として、全ての駅で少なくとも1台の券売機は新500円玉に対応できるようにしました。
(記者リポート)
「こちらの券売機に新500円玉を入れてみますとこの通り返ってくるのですが、別のピンク色の券売機に入れてみます。するとこちらはちゃんと反応します」
ただ悩ましいのが、進む「キャッシュレス化」。現金のためにどこまで投資するか判断は難しいと言います。
「硬貨選別機」交換に影響する“半導体不足問題”
さらに対応の遅れの背景には世界的な問題も絡んでいます。
再び大阪市内の酒店「伊吹屋」を取材しました。この日、店に自動販売機を卸した業者が訪ねてきました。
(酒店『伊吹屋』 小牟礼隆之さん)
「交換を注文した場合なんですけれど、どれくらいの期間がかかりますか?」
(酒自販機『ゼニスアンドカンパニー』 岡英二社長)
「今ほんとね、コロナの影響を受けていまして。コインメック(硬貨選別機)も半導体を使っていまして、半導体不足の影響を受けているんですね。機種やモデルによっては3月~4月までかかる機種もあります」
硬貨選別機の製造に半導体不足が影響を与えているというのです。
(酒自販機『ゼニスアンドカンパニー』 岡英二社長)
「(硬貨を)識別するセンサーに半導体チップを使っていますので、偽造コインなどを判定するコンピューターが入っていますので、その辺の要の部品が間に合わないということですね」
スマートフォンやパソコン、ゲーム機など情報機器に欠かせない半導体は、コロナ禍の巣ごもり需要などにより今年の夏前から世界的に不足状態に陥りました。
専門家によりますと半導体の製造は回復してきていると言いますが…。
(半導体に詳しい『産業創成アドバイザリー』 佐藤文昭代表)
「パソコンやスマホみたいなモノは金額が大きいから、やっぱりそっち優先になってしまうところはありますよね。需要の量が少ないモノは、どちらかと言うと後回しにされる所がありまして。(製造が不足分野に)ちょうどシフトしている所だと思います。そうすると春ぐらいにはモノが出てくると思います」
21年ぶりの500円玉。新硬貨登場でさらにお金がかかることは間違いないようです。