公立の保育所の中には自治体によっては『使用したおむつを持ち帰らないといけない』というところがあります。特に大阪や京都では「おむつ持ち帰り」のルールがある自治体の割合が高くなっています。使用済みおむつは臭いが気になる上に不衛生でもありますが、なぜ捨てるものをわざわざ持ち帰らないといけないのか、その不思議なルールの理由を調べました。
保育所帰りの荷物に「使用済みのおむつ」
大阪府内に住む田中千尋さん(仮名)。2歳の息子は保育所に通っています。
お迎え後の荷物を見てみると、使用済みおむつの入ったビニール袋がありました。
(田中千尋さん 仮名)
「ベビーカーのここにおむつの入った袋をかけています」
田中さんの息子が通う保育所では、園で使ったおむつは保護者が持ち帰ることになっています。
帰宅後、手洗いや着替えなどバタバタとお世話をしたあと、玄関に戻って、おむつの袋を処分します。
(田中千尋さん)
「うんちのおむつはやっぱりすごく臭いますね。保育園で袋を二重にしてもらっています。(Qそれでも臭う?)ほんわかと臭いますね」
これは田中さんの保育所だけのルールではありません。
「早くごみの日が来てほしい」
兵庫県西宮市に住む横山周平さん。2歳の娘・絢未ちゃんの保育所バッグの中に使用済みおむつの入った袋が入っています。
(横山周平さん)
「きょうは…3つですね」
おむつ替えが多い日は袋がパンパンになることもあるといいます。横山さんも帰宅するとすぐにおむつを捨てに行きました。
(横山周平さん)
「夏場とかはどうしても臭ってきちゃったりするので、早くごみの日が来てほしいな、早く捨てたいなって思います」
捨てるものをわざわざ持ち帰る、この不思議なルールは全国各地の保育所で行われているんです。
保育所のトイレ並ぶ園児の人数分のごみ箱
大阪府堺市の公立保育所「錦西こども園」で取材させていただきました。
トイレを見てみると0歳・1歳児の人数分のごみ箱がずらりと並んでいます。
おむつ交換に使用するおむつは、それぞれの家庭で用意されたものを使います。おむつ替えをしたあとは、それぞれのごみ箱に使用済みおむつを入れます。
(錦西こども園 吹田佳世園長)
「便の場合は、流せるものは便器に流しまして、別の袋に便のついた紙おむつを密封して、それぞれのごみ箱の中に入れています。細心の注意を払わないといけないので、個人の物を間違えないように」
おむつを保管する26人分のごみ箱は、臭い対策のためにも1週間に一度は消毒します。
園でまとめて捨てれば負担は軽減されるように感じるのですが、保育士は…。
(錦西こども園の保育士)
「ずっとこれできているので慣れています」
「おむつを持ってスーパーとかには行きづらい」
こうしたおむつの持ち帰りは、保護者側にとっては悩みの種にもなっています。2歳の息子が保育所に通う田中さんは、ごみの日まで臭いがガマンできず、取った対策があるといいます。
(田中千尋さん)
「おむつを入れる袋です。臭い対策のためにパン袋を購入しました」
パン店で使用している袋は臭い漏れを防ぐとされていて、おむつ用にわざわざネットで購入しています。臭いだけではありません。衛生面も気がかりです。
(田中千尋さん)
「病院は保育園が終わってから行くことが多いんですが、使用済みのおむつを持ちながら入るのは他の患者さんに悪いなと思いますし、不潔なものなので生鮮食品を扱っているスーパーとかには行きづらい。ごめんねって思いながらサササっと行って、サササっと帰るようにしています」
些細な問題にも見えますが少しずつ募っていくもやもや。
(田中千尋さん)
「保育園を責めているわけじゃないんです。ありがたいという気持ちでいっぱいなんですけどね。面倒くさいことが発生すると、『仕事するのもだめなのかな』って思う人もいるだろうし、軽くずーんって…」
理由は「子どもの体調把握」「処分費」
一体なぜ持ち帰る必要があるのか。大阪府堺市こども青少年局の大谷五月さんに話を聞きました。大谷さんは、持ち帰りの理由は大きく2つあるといいます。
(堺市こども青少年局 大谷五月幼保総括参事)
「『きょうはたくさんおしっこ出ているな』とか『きょうは少ないな』とか、(保護者が子どもの)体調の把握をするという部分がありますね」
1つは「子どもの体調を把握するため」だといいますが、中身を見ずに捨てる保護者も多く、本来の目的を果たしていないようにも感じます。そして、もう1つは「処分費」の問題です。
(堺市こども青少年局 大谷五月幼保総括参事)
「保護者がお家に持って帰られた場合は家庭ごみで無料で廃棄ができるんですけれども、園で処分となると『事業系一般廃棄物』という形になりますので費用が発生してくるんです」
保育所で処分するとなると、新たに予算を組んだり保護者から処分費を徴収したりする必要があるため、ルールはなかなか変わりません。
京都88%・大阪65%・東京24%
保育所での「おむつ定額利用サービス」などを展開する「BABY JOB」。この問題を調査したところ、おむつの持ち帰りをさせている自治体は京都府内では88%、大阪府内では65%に上っていました。東京都内は24%で、関西の自治体は比較的割合が高いことがわかりました(調査期間は2021年4月1日~7月30日)。
(BABYJOB 上野公嗣代表)
「保護者も保育者も当たり前になっているんですね。だから『そうじゃないところがあるんだ』と。みんな嫌だなと思っていても、子どもを預かってもらってるからなかなか声をあげにくい。ぜひ行政の方たちにも気づいてほしいです」
コロナ対策として持ち帰りをやめた自治体も
こうした状況を変えた自治体があります。奈良県三宅町にある町で唯一の保育所「三宅幼児園」。
トイレにあるおむつのごみ箱は今は1つだけです。ここでは2020年7月から、保護者の負担軽減のため、おむつの持ち帰りをやめました。さらに…。
(三宅幼児園の保育士)
「ここにおむつを収納しています。保護者の方に持って来ていただく必要は今はありません」
去年4月からBABYJOBのおむつ定額利用サービス「てぶら登園」を導入。これでおむつを持ち帰るだけでなく、おむつを持ってくる必要もなくなりました。感染症対策にもなるとして、導入にかかる予算はコロナの臨時交付金を活用したといいます。
おむつの負担から解放された保護者はこう話します。
(0歳児クラスの保護者)
「大拍手で『いい制度だな。楽になるね』と喜びました。以前はパンパンのごみ袋だったのが今は3分の1くらいですかね。臭いも少ないですし、心の余裕を与えてくれている」
さらに保育士の負担軽減にもなっています。
(三宅幼児園の保育士)
「ちょっとした時間が短くなったことで、別のことで子どもと一緒に関わる時間が増える。おむつ交換って子どもとスキンシップする大事な時間なので、負担が軽減されたことで、より丁寧にしっかりとみることにつながってきているんじゃないかと思っています」
小さな変化は忙しい保護者や保育士に余裕と笑顔を与えたようです。