大阪府では1月19日、新型コロナウイルスの新規感染者が初めて6000人を超えました。感染力が強いとされるオミクロン株。潜伏期間も短いことから、大阪の保健所では濃厚接触者の有無などを聞き取る「疫学調査」自体に限界が出始めていることがわかりました。一方、感染が広がるたびに病床がひっ迫していた病院は「第6波」の今、どういった状況なのでしょうか。

「電話の鳴り方が違う」対応に追われる保健所 

1月13日、大阪府豊中市の保健所では、保健師らが朝からひっきりなしに鳴る電話の対応に追われていました。保健所は、患者の体調・重症化リスク・濃厚接触者の有無などを聞き取る疫学調査を行っています。調査だけではありません。患者の療養先を決めることも仕事の1つです。
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(電話対応するスタッフ)
「(熱が)えらい上がったんですね、40℃ね。今ってお住まいはどなたかと一緒に暮らしていますか?1人暮らし?」

この電話の相手は20代のコロナ患者の男性です。友人がコロナに感染し、自分も体調が悪化したので検査を受けたところ、陽性だったといいます。
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(スタッフ)「1人暮らしで、熱が高かったけど今は下がってきましたと。猫がいるからおうちの方がいいけど、絶対(ホテルに)行きたくないという感じでもない。どうしようかなと思って」
  (係長)「猫をどうするとなるし、独居だし、本人がいいと言ったら(自宅療養で)いいよ」
(スタッフ)「わかりました。ありがとうございます」

この男性は自宅で療養することになりました。
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保健所は体調急変時に対応してくれる人がいるかや、ペットの世話のため自宅に居たいなどの事情も考慮した上で患者の療養先を決めていますが、感染者が急増する今、担当者は不安を抱えています。

(豊中市保健所 係長)
「きのうもかなりざわつきというか、電話の鳴り方が違ったような感じがあったんですけど、きょうはきのうのさらに1.5倍から2倍みたいな感じ。安全に市民の方を守らないといけないなというのがあるので、それが数が増えると一気にできるのかなという不安はあります」

第5波の経験をもとに「疫学調査のデジタル入力」を導入

豊中市では感染拡大が続き、1月19日は過去最多となる283人の新規感染者が確認されました。感染者の増加に伴い、13日には市役所からの応援職員約10人も駆けつけました。とはいえ、疫学調査には1人の患者に30分以上かかります。第5波の真っ只中だった去年9月には市内で1日120人以上の感染が確認され、対応が追いつかず、調査が手薄になるといった課題が残りました。
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そこで導入したのが…。

(電話対応するスタッフ)
「検査結果が届きまして、今回陽性だったということでお聞きしております。お手数ですが、“インターネットの入力フォーム”をご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」

この「疫学調査のデジタル入力」では、基礎疾患の有無や症状などをパソコンやスマートフォンで簡単に打ち込むことができます。入力は患者自身だけでなく、家族などが代理で行うことも可能です。1月8日に運用を始め、1月20日までに500人以上が利用したといいます。
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(豊中市デジタル戦略課 原田裕司さん)
「『1か月ほど前から咳が出ているのでそれがコロナかどうかわからない』というケースもありえますので。保健師に相談したいという項目等も準備しております。保健師の作業をだいぶ削減できているので、負荷を減らすことができているという声は聞いております」

「疫学調査が追いつかない。無力感を感じる」

第4波の最中にあった去年4月、大阪府の重症病床使用率が100%を超えるなど医療体制がひっ迫し、2時間以上入院先が決まらない事態も起きていました。搬送先の病院から患者の死亡を知らせる連絡がきたことも…。

(豊中市保健所 係長 去年4月)
「1分でも早く病院が決まっていたら違う結果やったんちゃうかなと、きっと家族やったら思うんやろうなと思うと、なかなか決まらなかった数時間というのはもどかしかったでしょうし、悔しかったやろうなと」
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第6波の現在、以前のような深刻な事例はないといいますが、別の問題が生じていると話します。

(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「次から次に周りの人にうつしていくということで、保健所が行っている疫学調査が追いつかない」
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オミクロン株は潜伏期間が2、3日と短いことから、疫学調査で濃厚接触者を特定・隔離することができず、感染の急拡大が続いています。

(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「疫学調査の限界と言いますか、無力感を感じているところです。医療的な処置が必要な方のケアに注力したいと思っていますので、無症状あるいは軽症な方々についてはあまり労力を割かなくてもいいような運用指針を出していただきたいなというふうには思っています」

“患者が1人もいない日もあった”が…感染者の急増に危機感

一方、中等症患者を専門で受け入れる十三市民病院(大阪・淀川区)。おととしの年末から去年1月にかけて到来していた第3波では、他の病院から医師や看護師を派遣してもらいながら、最大70床のうち、64人の患者を受け入れました。十三市民病院ではその後もこうした病床のひっ迫を何度も経験してきました。
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ところが、去年11月末からは患者が1人もいない日もあり、現在は、比較的症状が軽いとされるオミクロン株疑いの患者がほとんどだといいます。1月14日、院長に話を聞きました。

(十三市民病院 西口幸雄院長)
「咳とか熱とか鼻水、それから頭痛など一般の風邪とあまり変わりないような症状で来られる。私のところに入院される方は全員CTを撮っているのですが、肺炎像をここのところ確認したことないですね」
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さらに、入院患者には新たに飲み薬の「モルヌピラビル」や、点滴で投与する中和抗体薬「ゼビュディ」を用いた治療も行っています。

(十三市民病院 西口幸雄院長)
「重症化する因子のある人たち、糖尿病や肥満などの方に投与するということをやっています。使ったほとんどの方は軽快して退院されています」
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ワクチン接種も進み、重症化率は低い状態が続いていますが、感染者が急増する現状に西口院長は危機感を募らせます。

(十三市民病院 西口幸雄院長)
「モルヌピラビルも、発症して5日以内に投与しなさいと言われています。急激に患者数が増えてきますと、どうしても病院に入院できない人や治療を受けたくても受けられない人が出てくる」

新たな変異株による感染爆発。医療ひっ迫の懸念は高まりつつあります。