新型コロナウイルスの第6波でかつてないほどひっ迫している救急搬送。大阪市では、搬送開始まで30分以上の待機などを強いられる「救急搬送困難事案」が1週間で400件を超えています。コロナ患者以外の重症者などの搬送も担う大阪市消防の救急車がひっ迫する中、コロナ患者の搬送を担う“民間の救急車”を取材しました。
入院が必要なコロナ患者を搬送
1月21日、白い防護服をまとった救急救命士が、入院が必要なコロナ患者の自宅(大阪市内)を訪れました。自宅から運び出されストレッチャーで“青色の救急車”に乗せられたのは、80代のコロナ患者の女性でした。夫や孫など同居する家族4人が感染したといいます。
【搬送車両内のやりとり】
(救急救命士)「いま息苦しいとかはないですか?」
(患者の女性)「ないです」
(救急救命士)「ちょっとしんどいね。熱も高そうね。一応あと10分くらいで病院到着するから安心してくださいね」
患者が高齢の場合などは、保健所などが入院が必要かを判断します。
(救急救命士)「お父さんもコロナにかかってしまった?」
(患者の女性)「そうだと言っていた」
(救急救命士)「お父さんも入院しているの?」
(患者の女性)「そうやろうね」
(救急救命士)「よかったね。お孫さんいてくれてね」
患者には救急救命士が付き添い、容体の確認など声をかけながら病院へと向かいます。
10分後、患者は無事に病院へ到着。ストレッチャーで中へと運ばれていきました。
第6波は「急にドンと増えた感じ」
1月21日に大阪府で新たに感染が確認されたのは6254人(※後日2人取り下げ)。患者の搬送を担う救急救命士は、第6波を実感しているといいます。
(救急救命士 彦坂拓さん)
「徐々に徐々に増えるのではなくて、急にドンと増えた感じというのはイメージとしてありますね。今回は『増えそうやな』『増えたな』『(搬送が続くのが)もう夜までや』と、とんとん拍子だったと感じています」
委託を受けた「民間救急」の現場もひっ迫
大阪市旭区にある「関西メディカル民間救急」。こちらでは本来、緊急性の低い患者の転院や退院などの移送を請け負っていましたが、コロナ禍では自治体の消防局の救急車などでは手が回らず、大阪市や府などから委託を受けて12台の搬送車両でコロナ患者の搬送も担っています。
(報告するスタッフ)
「大阪市で34歳の妊婦の方でコロナ陽性なんですけど、出血もしているらしくて…」
搬送の現場はすでにひっ迫しているようです。
(関西メディカル民間救急 畔元隆彰社長)
「予約を受け付けてもご案内する時間がかなり遅くなってきてしまっているので、搬送車両としてはちょっとひっ迫しているような状況ではあります。現状このまま続くと(車両が)足りない状況になるんだろうなというのは目に見えています」
大阪市で「救急搬送困難事案」が急増
大阪市消防局によりますと、搬送開始まで30分以上の待機などを強いられる「救急搬送困難事案」が、去年12月20日~26日の1週間は161件だったのに対して、1月17日~23日までの1週間は411件と急増しています。
大阪市消防のSNSには、連日こんな投稿がされています。
(大阪市消防局のTwitterの投稿より)
『救急出動体制がひっ迫しています!通報の段階で少しお待ちいただく場合もあります』
大阪市消防がひっ迫する中、民間救急も…。
(畔元社長)「時間指定あるのかな?病院に12時半…これは無理やな」
(スタッフ)「無理ですね」
(畔元社長)「これ先に電話入れて、『無理です』と言って。で、いけるとしたら高石市だから13時15分」
搬送車両を確保できず、コロナ患者の搬送依頼を断らざるを得ませんでした。
第4波では搬送に8時間を要したことも
重症病床使用率が100%を超えた第4波。去年4月に取材した時、民間救急は極めて困難な事態に直面していました。
【搬送車両内のやりとり 去年4月】
(コロナ患者)「まだ入れる病院はない?」
(救急救命士)「そうですね、ちょっとまだ病院の方が決まっていないので」
酸素投与が必要な高齢患者を病院に搬送する予定でしたが、受け入れてくれる病院が見つからず待機を強いられ、搬送に8時間を要しました。
第6波で搬送される患者“コロナをなめているところがあった”
感染の第6波で、コロナ患者搬送の現状はどうなっているのでしょうか。1月21日、民間救急の搬送車両に50代のコロナ患者の女性が乗り込んできました。
【搬送車両内のやりとり】
(救急救命士)「夜、せきで寝られないですか?」
(患者の女性)「きのうは寝れないくらい。1時間おきに起きていた。朝は5時くらいから起きているんですよ。寝るのが怖くて、寝ているのが不安だから」
娘も感染し、一番体調が悪いときに保健所からの連絡がなく途方に暮れていたといいます。
(患者の女性)「区役所のメールに自分の思いを書いた。しんどすぎたので。きのうは体中がめっちゃ冷たくて、足が冷え切ってしまって全然温まらない、布団に入っても。軽いと聞いていたから、ちょっと『なめている』ところがありました」
「コロナをなめていた」と話した女性。病院に到着すると、しっかりとした足取りで院内へと入っていきました。
救急救命士は「高齢者の搬送の増加」を実感
第6波で再び増えているというのが、高齢者施設での集団感染です。搬送車両は複数の感染者が出ているという大阪市内の高齢者施設に向かうことになりました。搬送前に、患者の容体を電話で聞き取りします。
【電話でのやりとり】
(救急救命士)「容体はどのような?」
(高齢者施設の医師)「ストレッチャーの方がいいと思います。きょうちょっと(酸素飽和度が)落ちてきたので、酸素(投与を)始めました」
ストレッチャーに乗せられたのは90代の女性患者で、酸素投与が行われていました。救急救命士が酸素飽和度を測る器具を指に装着しますが…。
(患者に話しかける救急救命士)
「気になっちゃうね。ごめんね、これ(酸素飽和度を測る器具)いやだね。でもこれしておこう、ちゃんと。ありがとう。私の手握っておく?握っておこうか、私の手」
患者が器具を外さないよう優しく声をかけ、患者の手を握ります。そして20分後、無事に病院に到着。この日の搬送が終わりました。
(救急救命士 泊菜穂さん)
「ここ2、3日は高齢者。高齢者といっても超高齢ですね、そういう方の搬送が増えていると実感しています。私たちが一番最初に患者さんに接触して不安を取り除いてあげることが一番大切だと思うので、患者さんに寄り添えるような対応をしていきたいと思っています」
大阪府で1日の感染者が1万人を超えた第6波。重症化しにくいとも言われていますが、救急の現場はかつてないほどひっ迫しています。