奈良県桜井市に「談山神社」という神社があります。ここは明治時代までは「妙楽寺」という名前で紅葉の名所として知られていました。しかし、その神社のすぐ近くに、新たに「妙楽寺」という名前を掲げた寺ができました。かつて「妙楽寺」の名称を使用していた「談山神社」の関係者らは困惑しているといいます。一体どのような背景があるのでしょうか。

1200年続いた「妙楽寺」明治政府の方針で『談山神社』に

奈良県桜井市にある「多武峰」という山の頂上付近にそびえたつ「談山神社」。多くの建物が国の重要文化財に指定されて、縁結びの社があることでも知られています。
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毎年11月ごろには、3000本ほどのヤマモミジなどが色づき、約4万人の観光客を魅了します。

(観光客)
「前に来た時は秋、紅葉の季節に子どもをつれてきたんですけど」
「すごく有名で。本当にきれいです」
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そんな談山神社は、歴史ある神社としても有名です。

(談山神社・権禰宜 土居三純さん)
「中大兄皇子と鎌足公が出会いまして、2人で密談をするんですね。『大化の改新』について計画を立てる、その話し合いをした場所というのが裏山の『談山(かたらいやま)』と呼ばれている山です」
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『大化の改新』の話し合いが行われたと伝わる由緒ある土地。ここはもともと「妙楽寺」というお寺でした。
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その象徴といえるのが木造の「十三重塔」です。藤原鎌足の遺骨がこの地に埋められたあとに建てられて、妙楽寺の歴史はそれから始まったと伝えられています。
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しかし、明治時代に1200年続いた妙楽寺は明治政府の方針で神社となります。その際、大化の改新の話し合いが行われた「談山」の故事にちなんで、「談山神社」と名づけられたといいます。

(談山神社・権禰宜 土居三純さん)
「明治維新において『神仏分離令』が発せられて、妙楽寺も『お寺の形をとるのか』、『神社の形をとるのか』、その選択を迫られたわけですね」

元々の「妙楽寺」から約200m離れた場所に新たな「妙楽寺」ができる

ところが、脈々と語り継がれてきたそんな歴史に、衝撃を与える“ある出来事”が起きます。

(記者リポート)
「昔、妙楽寺だったこちらの談山神社。約200m歩いたところに新しい寺が去年できました。その寺の名前も『妙楽寺』ということなんです」
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去年11月、もとの妙楽寺、現在の談山神社から目と鼻の先に新しい妙楽寺ができました。
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この出来事に怒りを隠せないのが、去年まで談山神社の宮司を務めていた長岡千尋さんです。

(談山神社・前宮司 長岡千尋さん)
「まったくの寝耳に水というやつ。はっきり言って驚きしかないです」
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長岡さんが聞いていた内容は「曹洞宗の僧侶を称えるお堂を建設する」という話でした。長岡さんは了承して、自ら地鎮祭もとり行いました。しかし完成後、「妙楽寺」を名乗ったといいます。

(談山神社・前宮司 長岡千尋さん)
「何か裏切られたという感じがします。手のひらを返されたということですね。歴史をゆがめているということですから。(Q妙楽寺という看板については?)それは外すべきでしょうね」
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4代前の先祖がもとの妙楽寺の末寺で住職をつとめていたという、古代史の研究者で「愛知教育大学」の西宮秀紀名誉教授は問題があると話します。

(愛知教育大学 西宮秀紀名誉教授)
「今度できました妙楽寺の看板を見てですね、『本家はここなんだ』というように誤解すると、それはやはり間違った歴史認識をうむと。日本の歴史教育を考えるうえで、やっぱり私は黙っていられないですね」
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妙楽寺をルーツとする談山神社を訪れた観光客は次のように話します。

(観光客)
「それはちょっと都合悪いわな。間違ってそっち行ったり、いろいろあるやろうね」

一方でこんな声も聞かれました。

(観光客)
「(妙楽寺は)ありそうな名前ではありますよね。すごく珍しい名前だったら、寄せてきたのかなと思いますけど。後からできても、ありそうな名前かなとは思います」

新たな寺を建てた住職「談山神社は“妙楽寺”という名前を捨てた」と主張

今回、新しい妙楽寺を建てた丸子孝法住職(74)。
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丸子住職は、曹洞宗の開祖である道元の祖父が妙楽寺と関わりがあるとして、その由緒にもとづいて50年前から寺を造ることを考えていたといいます。さらに談山神社の敷地内にある『十三重塔』についても、丸子住職は次のように話しています。

(丸子孝法住職)
「今は談山神社の十三重塔になっています。(Q今あれは妙楽寺ではない?)妙楽寺ではないです」
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妙楽寺という寺は、談山神社に変わった明治時代になくなったと主張します。

(丸子孝法住職)
「気持ちのうえでは『1200年の間のことをどう考えられますか』ということを問いかけたいです。(Q名前を捨てたんじゃないかと?)捨てたんですよ。妙楽寺という名前を捨てたんですよ。談山神社が妙楽寺を復興するぐらいの気持ちがあるならなら(妙楽寺という看板は)取っ払いますよ」

専門家「不正な利用でない限り同一の名前の使用を止めるのは難しい」

宗教問題に詳しい法律の専門家は、「今回のケースで妙楽寺の名称の使用を止めるのは難しい」と話します。

(近畿大学法学部 田近肇教授)
「実際に差し止めが認められたケースというのは、私の知る限りではないと思います」

田近肇教授によると、「憲法で保証されている信教の自由が大前提になる」と話します。

(近畿大学法学部 田近肇教授)
「基本的に宗教団体がどういう名前を名乗るのかとか、自分の建物にどういう名前を付けるのかというのは、基本的に自由というのが原則だと思うんですよね。不正に名前を利用しようとしているとか、そのような事情がない限り、同一や類似の名前にストップをかけるのは難しいと思います」
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1200年の歴史を背負う「妙楽寺」の伝承をめぐり、古代史の舞台で起きた問題。解決への道のりは容易ではなさそうです。