京都府南丹市美山町は「かやぶきの里」として知られていて、昔ながらの日本の美しい風景が特徴的です。しかし、異常気象などで災害が起きた時に陸の孤島となりかねないリスクも負っています。美山町の集落ではこの冬、そうしたリスクを強く感じさせる出来事が起きました。それでもこの集落に住み続ける住民たちの思いを取材しました。

集落と町中心部を結ぶ道路で土砂崩れ…停電も

京都府南丹市美山町。南北に細長い京都の中ほどに位置するのが、芦生・白石・佐々里の3つの集落です。
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山に囲まれた日本の懐かしい風景が広がり、夏場はヤマメ釣りの人たちでにぎわいます。しかし、これらの集落でも過疎化が進み、住人約70人の平均年齢は63.8歳。そんな集落に、この冬“ある事件”が起きました。

事件といってもだれかが傷つくような犯罪ではありません。今年1月18日、集落と美山町の中心部を結ぶ道路で土砂崩れが起きたのです。

(記者リポート)
「斜面の土砂が大きく崩れフェンスをなぎ倒し、道を完全にふさいでいます」
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道路が寸断されただけではありませんでした。電柱が倒れ、電気も途絶えました。
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(集落の住民)
「こたつに湯たんぽいれてね、しのぎました」
「カセットコンロとかストーブとかを持ってきて、対処したんですけどね」
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電力はその日のうちに復旧しましたが、土砂が崩れた場所は雪のため崩落原因の調査ができず、2月17日時点も開通のメドは立っていません。

う回路は『凍結した険しい山道』

そこで、冬の間は雪で危険なため通行止めになる“う回路”が利用されることに。取材チームも除雪されたその道路を使って集落に向かいました。

(記者リポート)
「路面は凍結している箇所があり、ゆっくりしか車で走ることができません」
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道路の両脇は雪の壁です。対向車とすれ違うこともままなりません。
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すると、前方から除雪車がやってきました。すれ違うスペースがある場所までバックするしかありませんでした。
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これまでは町の中心部まで車で40分ほどで行くことができましたが、う回路は凍結した険しい山道です。大きく遠回りすることになり、2倍以上の1時間半もかかりました。

住民ら「住めば都」「ここにいたい」

夏場は地元でとれた川魚や山の幸を使った料理で人気という「民宿ハリマ家」のオーナー・勝山武司さんは次のように話します。

(民宿ハリマ家 オーナー 勝山武司さん)
「今はもう休んでいます。なかなか3か月も4か月も閉じていると、やっぱりお客さんがごとんと落ちますのでね、それは弱っているんやけど」
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これらの集落はひとたび災害などに見舞われれば陸の孤島にもなりかねない場所です。しかし、そこに住む人たちは…。

(集落の住民)
「子どもが早く来たらいいと言ってくれているけど、行ったら何にもすることないし、ここなら自分は動けるし、お父さんも夏場は畑もできるし、その方が健康でいいかなと思って。やっぱりここにいたいですね」
「やっぱり、こころやすい。気楽にお話ができるね、知った人ばっかりなので。遠いところから来た人は住みにくいやろけどね。私はもう小さいときからここに育っているので『住めば都』です」

医師らと交わす会話を楽しみに…集落の人たちを支える「訪問診療」

そんな集落の人たちを支えているのが町の中心部にある診療所のスタッフたちです。
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2月3日、南丹みやま診療所の尾嵜博医師らは、崩落が起きてから初めての訪問診療に向かいました。う回路を通って約1時間半かけて集落に到着しました。
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(南丹みやま診療所 尾嵜博医師)
「遠いですね。2倍以上やっぱり時間かかりました」

早速、往診する尾嵜医師。胸元につけさせてもらったカメラで、その様子をみてました。
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(尾嵜医師)「おはようございます」
  (住民)「ご苦労さまでございます」
(尾嵜医師)「ちょっと遅くなりまして」
  (住民)「すみませんね、雪の中」
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尾嵜医師らスタッフに女性の顔はほころびます。もちろん診察してもらうのが目的ですが、尾嵜医師らと交わす会話を何よりも楽しみにしています。そこには居心地のいい空間がありました。
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(診察する尾嵜医師)
「(血圧が)いつもより下がっていますわ。この前ちょっと高めだったけどね。きょうはお話なさっているけどあまり高くないですね」

続いて、2軒目の往診です。

   (住民)「ナツさんも元気にしていました?」
  (看護師)「今見てきましたけど、お元気でした」
 (尾嵜医師)「ナツさんもお家から動けないんですね、雪が多いとね」
   (住民)「商売人さんが来てくれてたらね、週に2回ほど会っていたんですけど」

最近は雪でなかなか会えない知人の近況を教えてもらいもします。この日、尾嵜さんが診察した住民の体調に問題はありませんでした。
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(南丹みやま診療所 尾嵜博医師)
「人が住んでおられて人の生活の中で医療と介護が必要でしたら、それはどういったことがあっても提供しなければならないと思います。そのために私たちの仕事が役に立てばいい」

市長「それぞれの地域を守っていかないといけない」

こうした状況に、行政もできるだけの支援を考えています。

(南丹市 西村良平市長)
「普段買っている灯油、それと実際に業者が高い経費をかけてう回して持ってきてくれると当然単価は上がりますよね。その差額は100%自治会に対して補助しますと。一見無駄かといふうに思われますけども、そこに住み続けたいという人の思いは否定できないし、何としても、南丹市にはいろいろ課題があってお金もたくさんいりますけども、歯を食いしばってそれぞれの地域を守っていかないといけないと思いますね」
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不便で、孤立のリスクもある住み慣れた場所。便利で安心だけれどよく知らない場所。ますます高齢化が進む中、支援するべきなのはどちらなのか。今回の崩落事故は、日本の行く末に一石を投じています。