「ハイアット リージェンシー 大阪」では、実は7年前から各地でお弁当を無料で提供する取り組みを行っています。ただ、メディアに向けた広報活動は一切していないため、取り組み自体はほとんど知られていません。コロナ禍でホテルも苦境に立たされる中、なぜ無料弁当を作り続けるのか。そこには一流だからこその“ある思い”がありました。

一流ホテルが『無料弁当』で行う支援

「ハイアット リージェンシー 大阪」の副総料理長・前畠伸幸さん。
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この日、作っていたのはホテルで提供する料理ではありません。40食分のお弁当です。
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(ハイアット リージェンシー 大阪 前畠伸幸副総料理長)
「かっちり西洋料理より、和洋という感じで持って行かせていただいた方が、食べやすいかなと思いまして。こちらはポークのピカタになります。それと今が旬のワカサギですね、梅風味の天ぷらにしました」
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ほかにもエビフライやひじきご飯など7品が入ったお弁当を“ある場所”に無料で届けます。
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前畠さんたちが到着したのは大阪府豊中市にある小さな食堂でした。
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この食堂では、店主の上野敏子さんが毎日ひとりでお弁当を作り、コロナ禍で苦しむ人々に無償で提供しています。「ハイアット リージェンシー 大阪」は上野さんの活動を知り、少しでも手助けになればと、お弁当を届けるようになりました。

(前畠さん)「こんな感じです」
(上野さん)「おぉ、めっちゃ豪華。ありがとうございます」
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お弁当は店先に並べられます。すると、すぐに通りすがりの地元の人たちが次々と持ち帰っていきます。「ハイアット リージェンシー 大阪」の無料弁当は、多い時で週に1度、この場所で提供されています。

(地元の人)「2つもらって行っていいですか?」
(上野さん)「はい」
(地元の人)「なんか、罰が当たりそうですね」

(地元の人)「タダでは悪いから…」
(上野さん)「大丈夫、大丈夫。持って行って」
(地元の人)「いいの?ありがとうございます」
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(食堂の店主 上野敏子さん)
「ほんまに『食べることもしんどい』『生きることもしんどい』という話を聞く中で、ハイアットさんが出してくれたお弁当ひとつで、こんだけ皆が、周りが明るくなるというのは、すごくありがたいなと思っています」

掲げられた理念『思いやりの気持ちが相手のベストを引き出します』

大阪市住之江区にある「ハイアット リージェンシー 大阪」は、1994年に開業しました。
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一流ホテルの「ハイアット リージェンシー 大阪」が最も大切にしている理念は従業員入口に掲げられています。『思いやりの気持ちが相手のベストを引き出します』と書かれています。
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(ハイアット リージェンシー 大阪 ミリアム・バロリ総支配人)
「私たちは『思いやりの心』をリードする企業です。コロナ禍で苦しんでいる人がたくさんいます。私たちには、『人に何かをしたい』という気持ちを持つ従業員がたくさんいるので、『思いやりの心』を地域に還元したいのです」
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「ハイアット リージェンシー 大阪」は2015年から大阪市西成区のあいりん地区や大阪府内のこども食堂で無料弁当を提供してきました。
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お弁当作りの指揮をとる副総料理長の前畠さんは、2019年の「G20大阪サミット」で世界の首脳らに提供された料理の責任者を務めました。
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普段は結婚式などの料理を担当していますが、コロナ禍でキャンセルが相次ぎ、作る機会を失っていました。

(ハイアット リージェンシー 大阪 前畠伸幸副総料理長)
「料理を作ることがなかったのでありがたいなと。このチームで料理を作れるんだと思ったのは確かですね」

無料弁当にかかる費用は全てホテルが負担しています。今では13人ものシェフが関わり、余った食材も使いながら、ホテルならではのお弁当を楽しんでもらおうと、メニューを考えています。
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この日は、ハンバーグやからあげなど、子ども向けのメニューでした。無料とはいえ一切手を抜きません。
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お弁当は子どもたちが待つ神社に届けられました。

(お弁当を食べる子どもたち)
「これなんや?魚みたいな感じ」
「うま!めっちゃうまい!」
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「ハイアット リージェンシー 大阪」はこうした活動を一切公表していないため、一流ホテルが無料弁当を配っていることはほとんど知られていません。見返りを求めているのではなく『地域に貢献したい』という思いで続けています。

厳しい冬に心を込めたメニューを用意

ホテルに少しずつ賑わいが戻ってきた去年12月。アフタヌーンティーを楽しむ人々の姿がありました。
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一方、厨房では前畠さん率いる無料弁当チームが慌ただしく動いていました。

(ハイアット リージェンシー 大阪 前畠伸幸副総料理長)
「午後2時半には完璧に仕上げといて。午後3時から積み込むで」
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この日、作っていたのは西成・あいりん地区の日雇い労働者のためのお弁当です。焼き鮭やミートボールなどを入れ、さらに“あるもの”を用意しました。
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(ハイアット リージェンシー 大阪 前畠伸幸副総料理長)
「豚汁うどんをボリュームたっぷりで用意しています。寒い中、来られていると思いますので、あったかい料理を出したかったので」
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豚汁の味は責任者の前畠さんが最終チェックします。そして3時間かけて250人分の豚汁とお弁当を作りました。
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配る場所は日雇い労働者らが寝泊まりするシェルターです。今回は配る量が多いため打ち合わせは入念に行います。シェルターのキッチンを借りて、急いで準備を進めていきます。
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寒空の下、1時間近く前から並んでいる人たちもいました。厳しい冬を乗り越えてもらおうと、心を込めて用意します。
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      (スタッフ)「熱いから気を付けてくださいね」
(弁当をもらいに来た人)「ありがとうございます」
      (スタッフ)「下を支えてくださいね。こぼれないように」
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(弁当をもらいに来た人)
「タダやったらこうやって1時間並ぶ人もいれば2時間並ぶ人もいる。(これはどこの炊き出しか知っている?)知らないです。そんなん聞いていない。タダでもらえたらいい」

副総料理長「私たちが作った料理で笑顔になってくれるなら」

『食べて幸せな気持ちになって、また誰かに思いやりの心を持って接して欲しい』。そんな思いを込めて、シェフたちは無料弁当を作り続けています。

(ハイアット リージェンシー 大阪 前畠伸幸副総料理長)
「貢献できているならありがたいと思いますね。私たちが作って笑顔になってくれるなら。料理人なので『おいしかった』と言われるのが、私たちは一番うれしいので」