自民党を揺るがす裏金事件。判明した自民党・政治刷新本部の中間取りまとめ案では、お金や人事のための集団とみられた「派閥」から脱却し「本来の政策集団に生まれ変わらねばならない」として、派閥の政治資金パーティーの禁止や、人事面での働きかけや協議を行わないことを明記するなどとしています。『派閥の人事』について、前衆議院議員で二階派に所属していた佐藤ゆかりさんは「資金力のある方がひょっとしたら腕にものを言わせてある程度ねじ込んでいくとか、あるいは世襲で親に世話になったからこの人は優遇しなければいけないという思いを持っている議員も確かにいます」と説明。その上で佐藤さんは「法律を作って政党を縛らないとガバナンスが効いてこない。第三者委員会を作って外部の有識者を招いて議論することが必須」と指摘しています。
◎佐藤ゆかり:前衆議院議員 高村派・二階派に所属 衆議院議員3期・参議院議員1期を務める 関西学院大学フェロー 民間シンクタンク代表取締役
◎武田一顕:ジャーナリスト 元TBS記者 元JNN北京特派員 中国情勢に精通 小渕内閣以降の歴代政権を取材 愛称は「国会王子」
――かつて高村派、二階派に所属していました佐藤ゆかり(前衆院議員)さんですが、実際に派閥の力というものを現役時代に感じたことはありましたか。
そうですね、やはり人事です。人事権を派閥が掌握しているってのは紛れもない事実でしたから、秋頃になりましたら皆さんそわそわして派閥とやりとりを始めることは確かにありました。
――やりとりって、具体的にどんなものがあるんですか。
所属議員それぞれが、どういう仕事に就きたいかっていうのを派閥幹部に意向を伝えるまではいいと思うんです。そこから先、『優遇される議員と、そうでない議員』が派閥の中に出てきますから、そこに「何のやり取りがあるのか」っていうのはやはり疑われても仕方がない。
――佐藤さんも政権の要職にも就かれてましたが、推薦の有無は自身で把握しているものなんですか。
最後の最後までわかりませんでした。副大臣就任の際には、官房長官からお電話をいただきますけれども、その電話をいただくまでは本当にわからないです。
――派閥の中で自分が優遇されるための評価基準ってのはどこにあるんですか。
評価基準は、派閥の議論なりで、この人はこの分野に長けてるなとそういう色分けはあります。その中で派閥幹部の人たちが登用していこうと、そういう流れになるんですけれども、政務官、副大臣までは大体順送りなんですよね。当選回数別にきます。だから基本は、『大臣のポストでいろいろなものがうごめく可能性』がある。資金力のある方が、ひょっとしたら腕に物言わせてある程度ねじ込んでいくとか、あるいは世襲で、「親に世話になったからこの人は優遇しなきゃいけない」って思いを持っている議員も確かにいます。
「夏と冬の資金手当」氷代と餅代ってなんですか?
――自民党政治刷新本部の中間取りまとめ案は、「派閥の政治資金パーティーの禁止」、「派閥の収支報告書に外部監査を義務付ける」、「夏と冬の所属議員への資金手当の禁止」、「派閥の事務所を閉鎖し、例会は党本部で行う」と、おおきく4つまとめましたが、「夏と冬の資金手当」ってなんですか?
(政治ジャーナリスト 武田一顕氏)氷代、餅代ってのは、夏と冬の民間企業だとボーナスですね、その代わりに派閥が配るお金があって、私が聞いてんのは、大体夏冬毎回100万円ずつ配ってるというふうに聞いてます。
(佐藤ゆかり氏)そうですね、大体100万円ぐらいですかね。それが原資になって政治活動のお金になるということです。それは当然記載しています。政策活動費として受けるわけですから。
――そこでもらう100万円は何に充てるというのは具体的にどう考えるのでしょうか。
(佐藤ゆかり氏)議員事務所は本当にお金が足りません、いくらあっても足りないぐらい秘書給与や人件費や事務所費に出ていきますから、100万円という大きなお金を受けたとしても、もう一瞬にしてなくなります。ですからやっぱり支出を削減するということは大事です。実は数年前に私の事務所で試算したことがあるんですが、国会議員の定数削減で、3分の1削減をすると、そこから生まれた原資で公設秘書の数を、現状の3人から7人まで増やすことができる予算が生まれるんです。そうすると私設秘書を雇う必要性が減りますから、支出負担が減ります。こういう改革を今回を機に議論を深めていただきたいと思います。
――国会議員の数を減らす、自分たちが苦しくなるルールを国会議員の皆さんでつくることができるんですか。
(佐藤氏)かつて自民党が下野にしていたときの選挙のマニフェストに、国会議員の削減「3分の1」って書いてあるんです。それが政権与党に戻ってなし崩しになった経緯がありますけれども、各党で国会議員の定数削減というのは実は言っています。ただ、比例代表の議員の枠を減らす議論が多くなるものですから、どうしても比例代表で選出議員の多い少数政党が反対してくるんです。今度は少数政党が反対勢力に回るので、なかなか難しいです。
(武田氏)今の佐藤さんの話は面白くて、自民党が下野したときに改革案を出したというでしょう、つまり自民党は政権が危なくなったり、政権を失うと真剣にいろんなことを考えるわけです。今は十何年と安泰で、多分選挙やっても勝てると思ってるから、こういうふうなお金の問題がいくらでも出てくるってことでしょう。
「政党法」などで縛らないと、ガバナンス効かない
(佐藤ゆかり氏)中間取りまとめも、派閥をなくすとか、派閥が違反をしたら自民党本部で処罰をするとか、書いてありますけれども、こういうことができるのかってなるとですね、法律的に「政党法」とかで政党とは何かとか、責任範囲はどこか、公平性を議員の中で担保するにはどうしたらいいかを、きちっと政党法を作って法律的に政党を縛らないとガバナンスが効いてこないと思うんです。そういうことも含めて第三者委員会を作って、外部の有識者を招いて議論していくっていうことがここは必須になってくると思います。
――そもそも派閥ってなくなったらどうなるのでしょうか。
(武田氏)どこの会社だって派閥はあるでしょう。なくすことはできない。私は本来岸田総理の言うべきことは、「派閥はなくせません。ただ、今回は派閥の問題でこことここが悪かったからこれは改善します、非常に厳しくします」っていうのが誠意ある対応で、あたかも派閥がなくなるかのような言い方は総理大臣も他の議員についても、非常に無責任な発言だというふうに私は考えます。
私が取材した話では、岸田さんと麻生さんが食事しましたね、あそこで岸田さんは麻生さんに謝ったわけです。「派閥の解消なんて勝手にぶち上げちゃって申し訳なかった」と。政治だから「その代わりに」って、今回の政治刷新本部での取りまとめは、麻生さんと茂木さん、派閥の親分2人におまかせしますという取引があったわけです。だから、取りまとめ案は玉虫色で何か納得いかないなというふうになったというふうに私は聞いています。
(佐藤ゆかり氏)(派閥がおかしくなったのは)やっぱり総裁選を意識してです。派閥というのは、総理総裁を出す派閥だ、という意識が、自民党どこにでもありますから、なかなか派閥で人事権を掌握しているものを手放したくないというのはあると思います。そのため適材適所から離れた発想になっていく。
ここはやはり政党というものを、きっちりとガバナンスを利かせて個人の幹部の意向によって左右されない、そういうリスクがあると優秀な人も政治に入ってこなくなりますから、左右されないガバナンスを確立するっていう意味で「政党法が必要」だと私は考えています。