首位をキープして5月28日からの交流戦に突入する阪神。交流戦前の巨人との3連戦は1勝2敗と負け越しました。26日の試合で“両チームの明暗を分けた差”や交流戦の注目ポイントについて、5月27日、ミスタータイガース・掛布雅之氏が解説しました。
「1対2で負けた大きなポイントは、4番のホームラン」
―――5月24日~26日は甲子園で『伝統の一戦』が行われました。掛布さん、やはり巨人戦は特別なものですか?
「特別ですね。巨人戦はファンの方たちがちょっと違うムードを作ってくれますので、選手にとってちょっと違う空気感の中でやる野球ですね」
―――交流戦前の最後の3連戦。24日はノーヒットノーランを献上、25日は完封勝ち、26日は延長戦で逆転負けという流れになりました。この3連戦、どのように振り返りますか?
「両チームとも打線はそんなに状態が良いわけじゃないんですよ。4番が打つか打たないかで、勝ち越すか負け越すかが決まったと思うんですね。3戦目の岡本くんのホームラン。状態はそんなに良くないですけども、あの場面で打てる4番のホームランが勝負を決めるわけですよね。しかもゲラの失投ですよ。甲子園の浜風を考えれば、あのコースに絶対投げてはいけないんです。外中心に攻めなければいけないのに、やや真ん中からシュート回転した一番飛ぶゾーンに投げてしまった。配球ミスもあります。反対に阪神の4番の大山ですけども、7回に菅野くんの投げたスライダーをヒットにしましたが、このスライダーは菅野くんが試合後に“投げミスの1球”だと言っているんですね。この1球だけを後悔していると。この投げミスをレフト前にしか運べない、ピッチャーの投げミスを長打にできない4番(大山選手)と、岡本くんとの差。1対2で負けた大きなポイントは、4番のホームランなんですよね」
―――ホームランを打たれたゲラ投手のその失投は球速がけっこう出ていましたが?
「どんなに速いボールでも、あのコースに投げてはいけないんです、絶対に。甲子園の浜風を考えれば、右打ちの4番バッターが左中間方向へ気持ち良く打てるコースには絶対に投げてはいけない。梅野も、もっと外を中心に、もっと繊細な、そして大胆なリードをしなければいけない。そういう入り方をしないと。(この3連戦は)1戦目から1点しか取られていなかったんですよ。戸郷くんにノーヒットノーランされたときも、阪神の投手陣は1点で抑えているんですよ。そういうゲームの流れを考えると、岡本くんに対してもっと慎重に、絶対にホームランを打たれないよう、バッテリーで作っていかなきゃ。それだけピッチャーが続けてきた3連戦の流れがあるんですよ。あの1球で全ての流れが切られてしまう。あの1球ってすごく大きいんですが、あの1球を仕留めた巨人の岡本選手もすごい。あっぱれ。大山は、4回に菅野投手がカウント3-1から投げたど真ん中のストレートを打ちましたが、センターフライ。7回のチャンスではレフト前ヒットを放ちましたが、この2球の失投を長打にできないんですよね。この4番の差が、1勝2敗・2勝1敗という勝ち越すか負け越すかの差として出た。4番のバッティングの差ではないかなと。ちょっと大山には厳しいことを言いますけど」
現役時代の打撃不振時に長嶋茂雄氏から電話!?
―――掛布さんも現役時代に4番を打っていました。ただ、打撃不振に陥ったこともあったということですね?
「当然あります。全く打てないときがありました。とんでもなく野次られました」
―――打撃不振に陥ったときはどうされましたか?
「それがね、よく話しているのですが、長嶋(茂雄)さんから電話がありました。家に電話がありまして、子機を持って話していたんですけど、『バットあるか?ちょっと振ってみろ』と。だから僕は子機を肩と耳の間に挟んで、振ったんですよ。何をやっているんだろうと思ったんですけど、電話越しに長嶋さんが『それだ、それでいいんだ』って言うんです。僕にはね、その声が“お前のベストスイングをすれば怖いものはないじゃないか”というふうに聞こえたんです。そう背中を押された一言で、僕は打点王とホームラン王の二冠王になりました。巨人の監督経験がある方が、阪神の4番に対して手を差し伸べてくれる。長嶋さんの気持ちの大きさといいますか、プロ野球は巨人が強いだけじゃ駄目なんだと、巨人と争ってファンの方に喜んでもらうプロ野球じゃないと駄目なんだというメッセージでもあると思いますね」
「大山の奮起が交流戦の成績を大きく左右するのでは」
―――掛布さんは5月26日の試合前に岡田監督へインタビューを行いました。その中で岡田監督は『クリーンアップは固定しないといけないんだけど…』ということも話されていましたね?
「3番にはまるバッターの状態が上がらないって言ってましたけども、ただもう交流戦に関しては、監督が言っているように1番から4番まで固定していくと思います。やっぱり1番2番が出塁しクリーンアップが返す形を作らないと交流戦5割も厳しくなると思いますので、このあたり大山の奮起というのは交流戦の成績を大きく左右するんじゃないですかね」
―――どの選手も3番に入ったときに打てていないという話ですが、これはどうしてでしょうか?
「これはね、(4番の)大山の状態が悪いからです。後ろのバッターの状態が良ければ、前のバッターにボール球とか厳しいボールは投げられないんですよ。やっぱりストライクで攻めてきます。ストライクで攻めてくるリズムがあればそこそこ打ちにいけるんですが、後ろの4番が2割そこそこですから、3番に近本が入ると近本のマークがすごく厳しくなるんですよ。状態のいい近本も、後ろの大山の状態が悪いと抑えられてしまう。3番を生かすための4番の大山の野球というものが交流戦でもすごく大切になるということです。パ・リーグ首位のソフトバンクの打線というのは、侍ジャパンで2番を打っていた近藤選手が5番を打っているんですよね。近藤選手が5番を打つことによって、4番の山川選手は今ホームラン王ですね。4番が打つことによって、3番の柳田選手の打率は3割。それぐらい5番から4番、3番の繋がりがあるという。後ろのバッターが起点になるんですね」
2軍の佐藤選手は「自分ではい上がってこなきゃいけない」
―――また、現在2軍の佐藤選手について岡田監督は『打てなくても悔しがる姿とかを…』と、成績以外での振る舞い方も大事ということを述べていました。
「僕は、佐藤なくして連覇はないと思います。この無期限の2軍での調整というもので、佐藤自身が自分ではい上がってこなきゃいけないと思うんですよ。どろんこになってですね、汗をかいて、それでもう1回1軍に戻る。そういう姿勢を岡田監督に見せることが、連覇への大きな鍵になるんじゃないか」
―――掛布さんがもし指導者だったら、佐藤選手にはどんな言葉をかけますか?
「どろんこにさせますね。頭を空っぽにさせてあげたい。何も考えずに白いボールだけを追いかけろと。白いボールだけ打てと。原点に戻してあげるための、体にある汗というもの全部出させてあげるくらい。徹底した素振り、バッティング練習ですね」
―――チームは去年、フォアボールを500個近く選びましたが、岡田監督は阪神打線に対する他チームの攻め方が今年は全然違うという話もしていました。
「今年の他球団の攻め方というのは、3球をバッターに投げて1ボール2ストライクというカウントを作るような攻めのパターンでピッチングを組み立ててきますので、阪神のバッターが3球までで1回勝負しなきゃいけないんですよ。打ち損じをすることによって自分の首を絞めるんですね。3球目までの1球を仕留めるということが交流戦でも打線のポイントになると思いますので、ぜひ3球目までの勝負に注目してテレビを見ている方たちは阪神の野球を見ていただきたい」
強打のソフトバンク打線に阪神投手陣がどんなピッチングをするか
―――その交流戦が5月28日に始まります。交流戦の戦い方について岡田監督からは『一発長打で大量点を取りにくるパ・リーグ相手に、足を絡めて対抗する』という話がありました。
「パ・リーグはDHを採用していますから、バントをして1点を取って1点を守り切る野球のリズムじゃないんですよね。3点4点を取る野球をやるためには、バントは必要ないわけです。そのためのホームランに代わる阪神の武器は何かといえば、近本や中野の足ですよ、スピードですよね。それをフルに交流戦で生かして、3点4点を取りにいく野球。でもそのためには大山のバットが必要だろうと。そこに戻るんですよね」
―――阪神は交流戦でDHをどうするでしょうか?
「監督にも『DHどうしますか?』と言ったら、『いないんよね』と、考えていました。渡邉、糸原らで考えると思いますけど、難しいですよ、DHは」
―――交流戦で戦うパ・リーグ。今トップを独走しているのがソフトバンクです(2位と4.5ゲーム差・5月27日時点)。5番の近藤選手は打率.342で、現時点(5月27日時点)で首位打者です。
「この打率のバッターが5番にいれば、4番で勝負しないわけはない。4番(山川選手)はホームラン王です。3番(柳田選手)と勝負しなきゃいけないんだよね。この打線に対して、セ・リーグ最強の投手陣を持っている阪神がソフトバンクに対してどういうピッチングをするか、どういうゲームをするかっていうのは、交流戦明けのリーグ戦に戻ったときに、いろんなポイントになると思いますよ。ソフトバンクとの試合は福岡でやりますので、DHが採用されます。これはちょっと注目したい」
「新庄監督の手腕も僕は評価したい」
―――交流戦の日程では、ソフトバンクとの対戦は最後ですね。5月28日からは日本ハムとの3連戦。今、日本ハムは状態が良いですよね?
「ただパ・リーグと当たる場合も、表のローテで当たるのか、裏のローテで当たるのか、そういうタイミングがあるじゃないですか。これも交流戦のおもしろいところなんですよ」
―――日本ハムの新庄監督が今シーズンのオープン戦から始めていることがあります。試合前のグラウンドでのメンバー交換時に、普通は相手の監督らと握手なんですが、ハイタッチをしています。全体的に一体になるのがいいということです。
「新庄監督は就任3年目ですけど、やっぱり自分のやりたい野球をできるチームを作り上げてきて、今年戦っている。新庄監督の手腕ってものも僕は評価したい。3連戦の時は甲子園が盛り上がると思いますよ。(岡田監督と)ハイタッチするのかな」